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『トリック』ではないのです

『代替医療のトリック』(サイモン・シン&エツァート・エルンスト著、青木薫訳、新潮社刊)を読んでみた。

鍼、カイロプラクティック、ハーブ療法、ホメオパシー他ほとんどの代替医療を科学的根拠を基にこき下ろした本である。
面白いほどにバッサリ斬っている。

私自身、科学的研究で博士号を取得してきたので、著者の言う『科学的根拠』の重要性は十分に理解できる。

ただ、鍼治療にも携わっているスタンスから著者の論を読んでみると異論を唱えないわけにはいかない。


著者が科学的根拠としているコクラン共同計画の系統的レビューによればこれまで鍼が有効といわれていた症状(本書p106~107)のどれについても鍼の有効性を示す根拠がないとしている。

臨床試験では患者たちを同じ条件下に置いて、鍼治療を受ける治療群と、受けない対照群とにランダムに割り振り、治療群のほうが対照群よりも症状が改善するかどうかを調べる。

プラセボの影響を考慮してのプラセボ対照比較試験として、対照群に対しては鍼をごく浅く打ち、治療群では正しい深さに打つ。
あるいは対照群には経穴をはずして鍼を打ち、治療群には正しい位置に打っている。

患者は自分が正しい深さに、また正しい経穴の位置に鍼を打たれているのかどうかはわからない(ブラインドテスト)。

治療群も対照群も、プラセボ効果はまったく同じように効き目を現わすが、治療群にそれを上回る改善が認められればそれは鍼のおかげということになるのだが、コクラン共同計画の系統的レビューでは両者に有意な差は認められず、鍼の効果には科学的根拠はないと結論付けたわけだ。


私が指摘したいのは、その系統的レビューに取り上げられている臨床試験についてである。

この試験方法は科学的考察を加えるためには絶対的に正しい方法なのだが、鍼に関して言えば、この方法に縛られることにより鍼本来の治療効果を出せなくなってしまうのである。

この試験では『正しい経穴部位に対し正しい深さに刺す』ことを鍼の治療としているが、本来の鍼治療の効果は刺した後の鍼の操作に因るところが大きいのである。

鍼が経穴に当たり、さらに正しい深さに達していても、そこに気を集めて補ったりあるいは気を抜いて瀉したりといった操作を加えなければ効果が出ないのだ。

そして、鍼にそのようなの操作を加えると必ず鍼の『響き』といわれる独特の感覚が生じ、これが鍼の効果を著しく高めることになる。

ただ鍼を刺して抜いただけの行為を(正しい深さで経穴に当たっていたとしても)鍼治療として判断してはいけないのだ。

仮に、先の臨床試験において鍼を操作したとすると『響き』が生じ、患者は自分が治療を受けていることに気付いてしまうため、ブラインドテストは成立しなくなる。

『この試験方法に縛られることにより鍼本来の治療効果を出せなくなる』と書いたのはこのことで、試験においてブラインド化を保持しようとすれば、『響き』を与えることが出来なくなり治療効果は減殺され、効果を出すには『響き』がブラインド化を破綻させてしまう。

よって、プラセボ対照比較試験が科学的根拠を得るための臨床試験だと言うならば、また、その試験以外に科学的根拠を示す方法がないというのであれば、鍼の効果を科学的に考察することは現在のところ出来ないということになる。

効果のない鍼を打って『鍼には科学的根拠がない』と騒ぐのではなく、『鍼は現在のところ科学では証明出来ない』と言うのが常識的なところなのではないだろうか。

ちなみに対照群に打った経穴を外した鍼でも、浅い鍼でも、鍼の操作を丹念に行えば響きは得られる。
鍼は経穴以外に刺したり浅く刺しても操作次第で効くのだ。
そもそもそれらを対照群としているところからも、鍼を本当に理解していない人達が、浅い考えで何とか科学的に判定できないかと試行錯誤した感がうかがえる。

『科学的根拠があるかどうかは現在のところわからない。けれども鍼は効く』のです。


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2007年3月、満を持して治療院を開業しました。

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